海外旅行保険の特約項目の一つ、緊急移送、特に飛行機での緊急移送なんて誰が利用するんだ?と海外旅行をするたびに疑問に思っていました。
実際、これまでエア・アンビュランス(傷病者輸送機、くだけた言い方をすれば "お空の救急車" )に乗った人に会ったこともなければ、乗った人の噂も聞いたことありませんでした。
何の脈絡もなく唐突に、「俺、エア・アンビュランスに乗ったことあるんだよね」と言い出す人もいないとは思うけど、今まで一切そういう話を聞いたことがなかったので、「どんな重病人が乗るんだろ」「どんだけ金が掛かるんだろ」というような興味はかなりあったりしました。
そして、そんなちょっと不思議なベールに包まれたエア・アンビュランスを僕自身が身を持って体験することになるとは想像もしていませんでした。
ドバイ行きを告げられた2日後には全ての手配が整い、キルギスをあとにすることに。
思えばキルギス、まともな思い出がありません。
入国した3日後に病院送りにされたんで、当然といえば当然だけど。
そのうちまた自転車持参で行きたい国ではあるんで、楽しい思い出作りは次回に譲ることにします。
保険会社が手配した救急車がビシュケク第4病院に来ないというトラブルがあったものの、ジョルディズ先生が別の救急車を手配してくれ、日本大使館が空港に連絡して空港内への救急車乗り入れを許可してもらい、無事キルギスを出国。
空港内でエア・アンビュランスのストレッチャーに移され搭乗開始。
エア・アンビュランスは僕の知らない空の旅でした。
搭乗者は自分の他に、パイロット数名、フライトアテンダント1名、保険会社が契約しているエア・アンビュランスを扱っている会社の専属ドクター、それからナースが各1名。
普通のエコノミーだと、離陸後にフライトアテンダントが名古屋の喫茶店でコーヒーのおまけについてくるようなピーナッツを配るけど、ここでは見た目からして高級そうなチョコレート。
右腕が思うように動かせず、チョコの包みがうまく取れず苦戦しているとフライトアテンダントのおねえさんがさりげなく包みを取ってくれて、「チョコレートを食べたい時はいつでも私に言って」と一言。
今までフライトアテンダントに優しくされた記憶がないため、好きになっちゃいそうでした。
離陸後しばらくしてから食事。
エコノミーでは「フィッシュ?ビーフ?フィッシュ?ビーフ?」しか聞かれないけど、今回は選択するメイン料理の説明があり、まずは前菜のサラダ。
食べ終わった頃を見計らい二品目のスープ。
そしてメイン。
ジュースは果物をブレンダーにかけたものをだしてくれるため、本当のフレッシュジュース。
デザートはフルーツの盛り合わせと、3回くらい聞き直して名前を覚えることをあきらめたアラビックスイーツ。
どっちを先に食べたいか尋ねられフルーツの盛り合わせから。
最後にアラブでは一般的というモチモチしたスイーツ。
このデザート、温かいうちにどうぞ、というものみたいで、これを食べている最中ドクターに怪我をした状況や痛みの有無を尋ねられていると、フライトアテンダントのおねえさんが「彼は今デザートを食べてるとこだから話は後にして欲しい」とドクターに。
でもドクター、構わずおしゃべりを続ける。
ドクターが話終わったらフライトアテンダントのおねえさんが新しいデザートを持ってきて、「このデザートは温かいうちに食べた方がおいしいから」と食べかけのデザートと交換。
こんな素敵なサービス、今まで受けたことありません。
機内限定でセレブでした、セレブ。
エア・アンビュランスは基本的には身動きが取れない重傷者や重病者を一刻も早く病院へ移送する緊急手段なんで、あんまりはしゃぐのは少し不謹慎かもしれないけど、自分にとってはセレブな空の旅でした。
エア・アンビュランスを専門に扱っている会社やそこで働くドクターやナースの存在を初めて知り、こういう医療の現場もあったんだなっていい勉強になりました。
明日は子供をロンドンまで移送する、という会話をしているドクターやナースの姿を見て、なんかカッコイイ、自分が中学生くらいなら将来の夢、エア・アンビュランスのドクターって言ってるわ、と思いつつ、今から目指したいかというと、そうでもないかなと。
でも、エア・アンビュランスのドクター、来世でなりたい職業トップ5に入ります。
ちなみに保険会社の人曰く、ビシュケクからドバイまでのフライトのお値段は約300万円だそうです。
ビシュケクからドバイまでは約3時間。
つまり、1時間−100万円のフライトでした。